●ハロウィンに化けて出た
 2004年ブリーダーズカップ。メインイベントのクラシックではとんでもないスーパーホースが誕生した。それがこのゴーストザッパーである。"Ghostzapper"とは英語で「悪霊退治人」という意味である。奇しくもハロウィン・イヴの10月30日という日に行われたブリーダーズカップでアメリカの頂点に立ったのが、この「悪霊退治人」である。そういえば、かの大名馬ネイティヴダンサー(Native Dancer)も、芦毛の幽霊"Grey Ghost"というニックネームが付けられていた。アメリカでは何かと幽霊が引き合いに出されるのだろうか?

●ガチンコの快速超特急
 ゴーストザッパーの何がそんなに凄いのか。それは彼が残してきた戦績と、このレースでの勝ちっぷり、パフォーマンスにある。彼の2004年の戦績を見ると、何と4戦4勝。こなしたレース数は少ないが、その内容は素晴らしい。まず7月4日に[GU]トムフールH(ダ1400m)にて4馬身半差の圧勝。これは前年の9月に[GT]ヴォスバーグS(ダ1300m)を6馬身半で圧勝して以来の出走であり、約9ヶ月のブランクを圧勝で繋いでしまったのだ。ちなみにこのとき両方のレースではアガダン(Aggadan)という馬が2着に入っている。ゴーストザッパーはこれまで挙げた勝ち星は全て1400m以下のレースであり、レース内容もハナからぶっちぎって逃げて勝っていたため、スプリンターであるように思われていた。初めに断っておくが、前述のヴォスバーグSを勝った時点で、アメリカスプリント界のトップホースであるのは間違いないのだ。
 このままスプリント路線で活躍するのかと思いきや、ゴーストザッパーの次のレースは8月21日の[GV]アイスリンBCハンデ(ダ1800m)と、一気に400mの距離延長であった。ここでゴーストザッパーはGVとはいえ、恐ろしいパフォーマンスを披露する。何と
10馬身半!という圧倒的大差で圧勝である。ちなみにこのときのベイヤー指数は驚愕の
128!過去最高の数字を叩きだした、2003年のチャンピオンホースのプレザントリーパーフェクト(Pleasantly Perfect)でさえ、119なのだ。この数字は正に桁外れなのだ。
 さて、1800mを圧勝したことでスプリンターとしての期待が、ブリーダーズカップクラシック制覇への期待へと変わったことは言うまでもない。勢いに乗ったまま、9月の中距離暫定王者決定戦[GT]ウッドワードS(ダ1800m)に出走。ここではクビ差の辛勝だったが、同距離で前走よりも1秒タイムを縮めたことで、来るBCクラシックの優勝候補として名を連ねることになった。ちなみに、この時の2着馬セイントリアム(Saint Liam)は、翌年2005年のブリーダーズカップクラシックに勝利して、アメリカ年度代表馬に輝いた名馬である。
 そしてついに来た大一番、最大のライバルは前年覇者
プレザントリーパーフェクト。春には世界最高賞金額レースの[GT]ドバイワールドカップ(ダ2000m)を優勝しており、前走は真夏の大一番[GT]パシフィッククラシック(ダ2000m)を制覇している。2000mという距離はゴーストザッパーはまだ未経験な分、プレザントリーパーフェクトが連覇する可能性も十分にあり得る。他にも、アメリカ3冠最終戦の[GT]ベルモントS(ダ2400m)でシービスケットの再来と言われたスマーティージョーンズをねじ伏せた、バードストーン(Bird Stone)も有力視されていた。また、日本からもパーソナルラッシュが参戦しており、注目を集めていた。
 絶好の1番枠からロケットのように飛び出したゴーストザッパーは、出だしから先頭に立つと、そのまま気持ちよさそうに飛ばしていった。これまでのスプリントや距離の短いレースとは訳が違う。距離も違えばメンツも全く違う。しかし、そんなことはお構いなしに天性のスピードでどんどん加速するゴーストザッパー。後ろではプレザントリーパーフェクトがバテるのを待ちかまえている。あのスピードで2000mが持つはずがない!
 しかし、人知を超えるとは正にこのことか。バテるどころか突き放すゴーストザッパー。先頭のままあっさりとゴール。2着のロージズインメイ(Roses in May)とは
3馬身差である。3着のプレザントリーパーフェクトはそれからさらに4馬身差だ。しかも、勝ちタイムはBCクラシックレコードの1分59秒02!
ゴーストザッパーは1頭でレースをして1頭で勝ってしまったのだ。ちなみに日本のパーソナルラッシュは先頭から約10馬身遅れの6着であった。また、2着のロージズインメイは翌年のドバイワールドカップを勝利する強豪馬である。
 1年前にスプリントGTを圧勝した馬が、次の年のBCクラシックを勝つなんて前代未聞である。日本で言うと、スプリンターズステークスを勝った馬が天皇賞(秋)に勝つような者だ。もちろん、日本にはまだそれを達成した馬はいない。
 ゴーストザッパーは翌年、2005年に1戦のみ出走した後、残念ながら故障で引退を余儀なくされてしまった。しかし、引退レースとなったメトロポリタンH(GI)でも、2着に6馬身半差をつける圧勝。タイムもダート1,600mで1分33秒29!!化け物じみた強さは年を越えても変わらなかったが、ここで彼の競走生活は終わってしまった。
 アメリカ競馬は、とにかく最初からスタミナをけちることなく飛ばしていくのが特徴である。その中で、ガチンコの追い比べでブッチギリの勝利をもぎとったゴーストザッパーは、これまでのアメリカ競馬でも最強の部類にはいると私は思う。一昔前の超快速馬ドクターフェイガーは、きっとこんな馬だったんだろうと思う。

ゴーストザッパー Ghostzapper(USA)
牡 鹿毛

馬主 Stronach Stables(ストロナック厩舎)
生産者 Adena Springs(アデナ・スプリングス)
調教師 Robert J.Frankel(ロバート・フランケル)
戦績 11戦9勝[9-0-1-1]
獲得賞金 344万6,120ドル
主な勝ち鞍 03ヴォスバーグステークス(GI)
04ウッドワードステークス(GI)
04ブリーダーズカップクラシック(GI)
05メトロポリタンハンデ(GI)
血統表
Awesome Again
1994
Deputy Minister Vice Regent Northern Dancer
Victoria Regina
Mint Copy Bunty's Flight
Shakney
Primal Force Blushing Groom Red God
Runaway Bride
Prime Prospect Mr. Prospector
Square Generation
Baby Zip Relaunch In Reality Intentionally
My Dear Girl
Foggy Note The Axe
Silver Song
Thirty Zip Tri Jet Jester
Haze
Saliaway Hawaii
Quick Wit
アウトクロス