スペシャルウィークは僕が一番好きな馬です。彼の強さを語るためには、彼自身の成績以上に、彼がいた時代と、そして共に競い合ったライバルについて知る必要があります。彼の強さは一人だけでなく、多くのライバルと共に創り上げてきたものなのです。当時の勢力図を見ながらこの馬を紹介したいので、長くなりますが、ご容赦下さい。

●ライバルとの最終決戦

3歳時、実力の高い世代で苦戦しながらも、大一番のダービーでは5馬身ブッチギリの勝利。例え勝てなかったレースでも、必ずライバルとの名勝負を繰り広げてくれた。何よりも圧巻だったのが、4歳時のジャパンカップで、
エルコンドルパサーを倒し当時世界最強といわれたたモンジューを破ったこと。そして迎えた最後の有馬記念。ライバルはただ1頭、グラスワンダー。宝塚記念では、3馬身差という決定的な差をつけられ、敗北していた。この時3着とは7馬身差も開いており、実力があることは間違いなかったが、2頭の間には大きな壁が立ちはだかっていた。

しかし、ここまで順調に使われ、天皇賞・ジャパンカップと連勝してもはや絶好調のスペシャルウィーク。対して、足元が弱いため、間隔を開けながら大事に使われてきたグラスワンダー。オッズはグラスワンダーが2.8倍、スペシャルウィークが3.0倍。グラスワンダーの昨年から続く有馬記念・宝塚記念・有馬記念の史上初グランプリ3連覇か。スペシャルウィークの天皇賞(秋)・ジャパンカップ・有馬記念の史上初古馬GI3連覇か。どちらが勝っても歴史的記録が生まれることは決まっていた。

レースが始まり、2頭は共に後方待機。スペシャルウィークはグラスワンダーのすぐ後ろにつけてマークする形。3コーナーでグラスワンダーが動き出し、つられるようにスペシャルウィークも抜群の手応えで追い出しにかかる。4コーナーで先団につけ、後は直線勝負。グラスワンダーが先に抜け出し、中山の急坂を駆け上がる。次々と他馬を追い抜き、先頭に立つグラスワンダー。しかし、後方からスペシャルウィークが驚異の末脚で強襲。テイエムオペラオーも突っ込んできて、混戦模様のまま飛び込んだところがゴールだった…

●不振からの復活

僕が競馬を始めて見たのは1999年、天皇賞(秋)。もちろん競馬場に行ったわけでなく、家でのテレビ観戦。このころ、日本の競馬界では
エルコンドルパサーの凱旋門賞2着という快挙を達成し、日本馬のレベルが高いことを証明したことで大きな盛り上がりを見せていた。そして迎えた天皇賞では、98年2冠馬セイウンスカイが前走札幌記念(GII)を快勝し、1番人気に押されていた。2番人気は、皇帝シンボリルドルフの息子ツルマルツヨシ。前走は京都大賞典ではスペシャルウィーク、メジロブライト、テイエムオペラオーのGI馬3頭を破っての勝利。ここにきて素質が開花したと認められての高評価だった。3番人気は、98年春の天皇賞馬メジロブライト。前走ではツルマルツヨシに後れを取ったが、僅差の2着。巻き返しを期待しての3番人気であった。そして4番人気は98年ダービー、99年天皇賞(春)制覇スペシャルウィークであった。実績から考えると4番人気は低評価だが、前走ではツルマルツヨシの7着、前々走はグラスワンダーに惨敗。馬体重も-16kgというのが嫌われたのだろう。5番人気は安田記念で怪物グラスワンダーを倒したマイル王エアジハーだった。

レースはアンブラスモアが1000mを58秒という超ハイペースで逃げ、展開は後方からの差しが有利になっていた。以前はハイペースで逃げ粘るスタイルだったセイウンスカイだったが、前走で差しの競馬で勝ったことから、期待はより大きくなった。有力どころは後方に控え、東京コースの長い直線が勝負となった。中団からステイゴールド、エアジハード、スティンガーが伸びてくる。セイウンスカイもジリジリと伸びてくるが前を交わす勢いはない。後方集団も伸び足を見せないまま、人気薄の大穴ステイゴールドで決まるかと思われた瞬間、1頭の影が大外を襲いかかるように伸びてきた。スペシャルウィークだった。わずかにクビ差交わしてゴール。上がり3Fは最速の34.5、タイムも1:58.0のレコードタイムだった。ステイゴールドとの馬連は万馬券となり、昨年から密かにGIで善戦を続けた名脇役の存在を思い知らされる1戦でもあった。3着にはエアジハードが粘り、ハイレベルの2000mで善戦したことから、次走マイルチャンピオンシップでの走りが期待された。復活したスペシャルウィークは、天皇賞春・秋連覇の偉業を達成。これは、スーパークリーク、タマモクロス以来の快挙であった。

王道をゆくスペシャルウィークは、次走ジャパンカップへ備える。ここで、大きなニュースが飛び込んできた。凱旋門賞馬
モンジューの参戦である。モンジューはフランスとアイルランドのダービーにも勝っており、現役世界最強の呼び声も高かった。新聞では「エルコンドルパサーの敵を!」というキャッチコピーで賑わいを見せた。スペシャルウィーク自身は、昨年のジャパンカップでエルコンドルパサーの3着だった。果たしてエルコンドルが勝てなかったモンジューに勝てるのか?しかし、天皇賞(秋)では並み居るライバルをレコードで一刀両断。もはや去年のスペシャルウィークではないと誰もが認めていた。また、当初はグラスワンダーもこのジャパンカップを目標に調整されていたが脚部不安のため、有馬記念1本に照準を絞る。これにより、名実共にスペシャルウィークが「日本の総大将」として世界の強豪を迎え撃つことになった。

当日を迎え、直前のオッズはモンジューが2.7倍で1番人気。スペシャルウィークは3.4倍で2番人気だった。一騎打ちムードのまま、秋の西日傾く東京競馬場でゲートが開かれた。またもアンブラスモアのハイペースの逃げでレースが始まった。スペシャルウィークは中団よりやや後ろ、モンジューはその直後につける形となった。2頭とも直線までは我慢し、4コーナーを過ぎたところで一気にスパートをかける。先頭集団の馬は続々と脱落し、後続集団と入れ替わっていく。スペシャルウィークは抜群の手応えで馬場の真ん中当たりを伸びてくる。モンジューはスペシャルウィークから1歩遅れて伸び始めるが差が詰まらない。スペシャルウィークと共に上がってきたインディジェナスとハイライズを交わすことなく、そのままゴールであった。スペシャルウィーク、危なげない勝ち方でGI連勝であった。後にモンジュー陣営は、輸送と硬い良馬場を敗因として上げたが、古馬よりも負担重量の軽いモンジューを破ったことで、次の日のスポーツ新聞には「スペシャルウィーク世界最強」の文字が躍り出ていた。もはや日本でスペシャルウィークに敵う馬はいなかった。ただ1頭、怪物グラスワンダーを除いて…

●98年3歳クラシック〜最強世代〜

少し話が前後するが、彼のクラシック戦線の話をしよう。1998年当時、外国産馬のエルコンドルパサーとグラスワンダーにはクラシックへの出走権がなかった。2頭の強豪がクラシックに参加できないことで、レベルの低下が懸念されたが、それは全く無駄な希有に終わる。この世代には、2頭の不在を補ってあまりあるほどのスター候補がそろっていたのだ。中でもスペシャルウィーク、キングヘイロー、セイウンスカイの3頭は「3強」と呼ばれていた。父は凱旋門賞馬、母はアメリカGI7勝馬と、超がつく良血で、2歳時から重賞を勝ち、早くからクラシック候補に上がっていたキングヘイロー。年明けから新馬戦、特別戦と、ブッチギリで逃げて圧勝を重ねたセイウンスカイ。そして、血統面からも高く評価され、年明けの重賞を快勝し、実力最右翼と言われたスペシャルウィーク。この3頭は本番前のトライアル、弥生賞で初顔合わせとなった。弥生賞では、良血キングヘイローが1番人気、スペシャルウィークは2番人気、セイウンスカイは3番人気であった。レースは、セイウンスカイのしぶとい逃げをスペシャルウィークがあっさり交わして勝利。キングヘイローは4馬身差の3着と、2頭から水をあけられた。

そして迎えた3冠第1弾、皐月賞(GI)。前走の勢いを買われて、スペシャルウィークが圧倒的な1番人気に推される。セイウンスカイキングヘイローは僅差でそれぞれ2番人気と3番人気となった。しかし、徳吉から乗り代わった横山が駆るセイウンスカイが絶妙な先行策をはかり、直線に入っても足色が衰えない。後ろに追いつかれることなく、まんまと逃げ切った。先団につけて抜け出したキングヘイローはよく粘って2着。後方から猛追を図るスペシャルウィークだったが、キングヘイローも捕らえきれず、3着。1強から再び3強へと勢力が変わった瞬間であった。

次のダービーでは、ファンはセイウンスカイの2冠達成よりも、スペシャルウィークの復活を望んだようだった。1番人気はスペシャルウィーク、2番人気は前走で惜しい競馬だったキングヘイロー、皐月賞馬は3番人気であった。レースは意外な展開を見せた。セイウンスカイが行くかと思われたが、なんとキングヘイローが逃げるという予想外の事態。この時、デビュー3年目の福永は、ダービーのプレッシャーから騎乗をコントロールできなかったと言われている。現に、パドックでまたがったときには顔面蒼白で調教師の声も届かない状態だったという。今ではすっかりトップジョッキーとして活躍している福永だが、この苦い経験が今に生きたのだと僕は思う。玉砕的なキングヘイローの逃げのまま、最終コーナーへと向かう。尽き果てたキングヘイローは後退し、2番手のセイウンスカイが逃げ切りを図る。しかし、東京の長い直線を逃げ切るのは難しかったか、後続に追いつかれる。後ろからは満を持してスペシャルウィークが突っ込んできた。直線半ばで先頭に立つと、後は独壇場だった。武豊、初のダービー制覇に向けて渾身の鞭。だが、残り100mのあたりで何と鞭を落としてしまう。しかし、すでに決着はついていた。スペシャルウィーク、5馬身差の圧勝でダービー制覇であった。

春を終えて向けて各々英気を養い、それぞれの秋に向けて再出発を迎えた。3冠最終戦、菊花賞(GI)。ここでもスペシャルウィークは1番人気であった。トライアル京都新聞杯(GII)を圧倒的人気を背負い勝利。1.5倍の断然人気であった。しかし、ライバルも確実に成長していた。2番人気のセイウンスカイは、前走京都大賞典(GII)で古馬を一蹴。絶好調での参戦であった。3番人気のキングヘイローは、休養明け後勝ち星がないものの、前走ではスペシャルウィークの僅差2着と、存在をアピール。3000mの長丁場、スタートが切られた。展開は予想通りのセイウンスカイの逃げ。キングヘイローは中団からやや前目、スペシャルウィークは中団からやや後ろと、いつものそれぞれのポジショニングだった。しかし、セイウンスカイの逃げは芸術の域に達していた。長距離をいいことに、序盤はハイペースで突き放し、間隔を開けたまま気づかれないようにスローに落とすという、鞍上横山の職人技が光った。菊花賞の200mごとのラップはこちら。

13.3-11.5-11.7-11.7-11.4-12.1-13.1-13.5-12.7-12.9-12.3-11.9-11.6-11.5-12.0

1000mを過ぎてから2秒近くラップが落ちていることがわかる。セーフティリードを保ったまま、残り800mを11秒台で片づけられたら為す術はない。セイウンスカイ、驚異の逃げ足で2冠達成である。スペシャルウィークは上がり3Fを34.1の豪脚でよく追い込むも3馬身半差の2着が精一杯であった。ちなみに、この時のタイム3:03.2は芝3000mの世界レコードであった。とても3歳馬に出せるタイムではなかった。その後、キングヘイローとセイウンスカイは有馬記念へ、スペシャルウィークはジャパンカップへ目標を定めた。この3強の対戦は一度休戦となる。

ジャパンカップでは、女傑エアグルーヴと、最強の外国産馬エルコンドルパサーとの対決が待っていた。
スペシャルウィークは武豊から代打で岡部に乗り代わりだったが、さほど不安とも思われず、ダービーと同じコースということから1番人気に支持された。前年の年の天皇賞(秋)を勝ち、ジャパンカップでも2着だった歴史的女傑エアグルーヴが2番人気。毎日王冠では幻の快速馬サイレンススズカに破れて無敗記録がとぎれるも、実力は十分認められていたエルコンドルパサーが3番人気。1800mまでの勝ち星しかないことから距離の不安もささやかれていた。BCターフを好タイムで勝った外国馬チーフベアハートが4番人気であった。実質、この新3強の対決ムードとなった。この3強の対決はこれ1回きりだったが、また歴史に残るような名勝負となった。3強はそろって先行集団につけ、お互いを牽制し合う形となる。エルコンドルパサーが少し前に出る形で最終コーナーを迎える。後ろから伸びてくる馬はいなかった。エルコンドルパサーは、なんとそのまま突き放し、最後は2着エアグルーヴに2馬身半差をつけて勝利。スペシャルウィークはそれからさらに半馬身差の敗北だった。エルコンドルパサーの、3歳馬離れした驚異のパフォーマンスにより、この世代の実力が高いことを再び証明した。その後、スペシャルウィークは休養に入り、エルコンドルパサーは年明けの海外遠征に備えた。エアグルーヴは有馬記念に向かい、再び強豪の激突となった。

有馬記念では世界レコードホルダー、セイウンスカイが1番人気。2年連続ジャパンカップ2着の最強牝馬、エアグルーヴが2番人気。春の天皇賞優勝馬、メジロブライトが3番人気。この3頭に人気が集中し、新たな3強を形成していた。離れた4番人気に、骨折休養明け以降さっぱりしないグラスワンダーが続いた。しかし、この時眠れる獅子が目覚めた。1年前の朝日杯で怪物の異名を取ったグラスワンダーが、その勝利を思い出すかのような快勝。またもや3歳馬、外国産馬のGI勝利であった。エルコンドルパサーとグラスワンダー。最初で最後の激突はサイレンススズカという稀代の名馬に勝利を奪われたが、果たしてどちらが強かったのか?世代の実力を示した2頭はクラシックで活躍した馬を次々となぎ倒し、世代最強へと上り詰めた。春には3強だった勢力図が、最強外国産馬2頭vs国内クラシック組の図式へと変わっていった。

年明け以降、外国産馬2頭は海外遠征と、脚部不安のためしばらくは表舞台から姿を消す。鬼の居ぬ間にと言わんばかりに、国内組の戦いが始まる。その中心はメジロブライトとセイウンスカイ、そしてスペシャルウィークであった。それぞれ、冬から春にかけての重賞を勝利。3頭が相まみえたのは天皇賞(春)であった。1番人気はスペシャルウィークで2.3倍。前走、本番に向けての重要なトライアル、阪神大賞典(GII)でメジロブライトを倒しての勝利。年明け以降充実した経過が評価された。2番人気はセイウンスカイで2.8倍。前走はライバルのいない日経賞(GII)を5馬身差で圧勝。こちらも順調な仕上がりを見せていた。菊花賞の再現を願うファンの声が多かった。3番人気はメジロブライトで4.1倍。前走ではスペシャルウィークに後塵を拝するも、3着とは7馬身差と、実力の違いを見せつけた。前年の天皇賞(春)を制しており、長距離での実績は随一で、経験から逆転を狙える位置にあった。4番人気のマチカネフクキタルは13.8倍と、完全に3強ムードだった。レースは予想通りセイウンスカイの逃げ。しかし、スペシャルウィーク武豊は他馬がついて行けないと見ると早くも3番手につける。メジロブライトは中団から最後の差し足に賭ける。セイウンスカイが菊花賞のように前半とばして中盤は押さえる競馬を見せたが、スペシャルウィークにマークされてしまい、完全な効果は発揮できなかった。最後の直線ではセイウンスカイとスペシャルウィークのたたき合いをスペシャルウィークが抜け出した。そこから、メジロブライトがすごい足で強襲してきたが、半馬身捕らえきれずにゴール。スペシャルウィークが1強へと上り詰めた瞬間であった。国内最強の称号を確実なものにするためにはあと1頭倒さなくてはいけない馬がいる。そして怪物が帰ってきた。
グラスワンダーは京王杯スプリングカップ(GII)を快勝して始動。2500mの有馬記念から1400mの京王杯を制するという、距離適正の広さに誰もが驚愕した。安田記念(GI)では、名マイラー、エアジハードに僅差で敗れるも実力は十分に示した。

そして迎えた頂上決戦、春のグランプリ宝塚記念(GI)。最強のクラシック馬は最強の外国産馬に一矢報いることができるか?人気は2頭に集中していた。1番人気は
スペシャルウィーク、1.5倍である。春の充実ぶりから、もはやグラスワンダーを超えたという評価だった。2番人気はグラスワンダー、2.8倍。短い距離を使われたことで、2200mではスペシャルウィークに敵うのかという不安が評価をわずかに落とした。3番人気は、春のクラシックを善戦したオースミブライトだったが、正直役不足感は否めず、15.9倍と大きくかけ離れていた。もはや2頭以外の決着はあり得なかった。しかし、勝負はあっけない幕切れだった。天皇賞同様、前に行く馬が少ないため先団につけたスペシャルウィーク。グラスワンダーはその直後を見る形でレースを進めた。直線に向き、いったんは先頭に出たスペシャルウィークだったが、直後のグラスワンダーの切れ味はすさまじかった。あっという間に置き去りにされ、そのまま3馬身差のゴール。文句なしの完敗であった。これで外国産馬2頭には続けて負けてしまった。しかも、どちらも3馬身差という、決定的な差をつけての負けであった。もしこの2頭がクラシックに出走していたら…。そう思わせたくなるようなグラスワンダーの勝利であった。屈辱を胸に秘め、打倒グラスワンダーを目指してスペシャルウィークは秋の飛躍を約束する…

●最強世代、頂上決戦

そして再び有馬記念、最後の直線へ。宝塚記念と逆の形でレースを進めたスペシャルウィーク。最後のゴール番前ではどちらが勝ったのかまったくわからなかった。鞍上の武豊は勝利を確信してウイニングランへと向かい、グラスワンダーの的場は敗北を悟ったか、検量室へ戻っていった。しかし、審判は下される。1着 グラスワンダー。2着 スペシャルウィーク。その差なんと4cm。体長2mを超え、一歩で6m以上跳ぶ馬が、2500mを競争してわずか4cmの決着である。もはやこの決着に言葉はいらなかった。確かに1着と2着には分けられたが、このレースを演出した2頭は、このレースの主役であった。勝利以上に大きな栄光を掴んだのだ。

その後、JRA賞の表彰では、年度代表馬をどの馬にするのかで大いにもめた。凱旋門賞2着、フランスでGIを勝ったエルコンドルパサーか。グランプリ3連覇の偉業を達成したグラスワンダーか。国内古馬GIですべて3勝2着2回、ジャパンカップではモンジューを倒したスペシャルウィークか。あの馬に勝ったこの馬を倒したがその馬には勝っていないという、微妙な実力関係もあって、ファンも含めた競馬関係者の意見は大きく分かれた。結果として、年度代表馬はエルコンドルパサーに決まったが、グラスワンダーとスペシャルウィークには特別賞が贈られた。
栄冠を受ける受けないは確かに重要だが、それはあくまでも勝負とは別の世界のことである。我々が議論したところで、スペシャルウィークの勝利は勝利であり、敗北は敗北なのだ。それは変わらないのだ。スペシャルウィークはスペシャルウィーク、グラスワンダーはグラスワンダー、エルコンドルパサーはエルコンドルパサーなのだ。

近年まれに見る、レベルの高いライバル関係の中で、これだけの成績を残せたことは驚愕に値する。最近では1頭のスターホースに人気が集中しがちで、2強ムード、3強ムードといったことがあまりない気がする。スターホースがいなければ、混戦ムードという、どこか混沌とした状況になる。競馬の醍醐味の一つは、「強い馬同士がしのぎを削る」ことにあると思う。期待を裏切らないパフォーマンスで激突を繰り返すサラブレッドの姿は美しい。馬券妙味は薄れても、僕はそういう競馬をこれからも見ていきたい。



1995年生まれ、つまり1998年のクラシック世代は「黄金世代」よばれ、多くの名馬がこの世代から生まれていた。
彼らの戦績を簡単にまとめてみた。

セイウンスカイ
 皐月賞・菊花賞の2冠、菊花賞は芝3000mの世界レコードタイムでの勝利。
グラスワンダー
 2歳時に朝日杯3歳ステークス(当時)をレコードタイムで勝利、骨折復帰後3歳でセイウンスカイ・エアグルーヴを破り有馬記念制覇、4歳時は宝塚記念でスペシャルウィークを倒して優勝、連覇をかけた有馬記念ではスペシャルウィークとのハナ差4cmの激戦を制して連覇達成。
エルコンドルパサー
 無敗の5連勝でNHKマイルカップ優勝、日本馬初の3歳ジャパンカップ制覇。ジャパンカップではエアグルーヴ・スペシャルウィークを破る。4歳時はフランスに長期遠征を行い、サンクルー大賞(GI)優勝、凱旋門賞(GI)2着の快挙を達成。
キングヘイロー
 皐月賞2着、後に高松宮記念制覇
エアジハード
 4歳で安田記念・マイルチャンピオンシップのマイルGI連覇、安田記念ではグラスワンダーを破る。
スペシャルウィーク
 最強世代のダービー馬。1999年は天皇賞(春・秋)の連覇と、ジャパンカップ優勝、宝塚記念と有馬記念で2着という、古馬GI戦線ではパーフェクトに近い成績を残した。有馬記念の2着で、世界最高賞金獲得馬となる。

スペシャルウィーク Special Week(JPN)
牡 黒鹿毛

馬主 臼田浩義
生産者 日高大洋牧場
調教師 白井寿昭
戦績 17戦10勝[10-4-2-1]
獲得賞金 10億9262万3000円
主な勝ち鞍 98日本ダービー(GI)
99天皇賞・春(GI)
99天皇賞・秋(GI)
99ジャパンカップ(GI)
2着
98菊花賞(GI)
99宝塚記念(GI)
99有馬記念(GI)
3着
98皐月賞(GI)
98ジャパンカップ(GI)
血統表
サンデーサイレンス
Sunday Silence
1986
Halo
1969
Hale to Reason Turn-to
Northirdchance
Cosmah Cosmic Bomb
Almahmoud
Wishing Well
1975
Understanding Promised Land
Pretty Ways
Mountain Flower Montparnasse
Edelweiss
キャンペンガール
1987
マルゼンスキー
1974
Nijinsky Northan Dancer
Flaming Page
シル Buckpasser
Quill
レディーシラオキ
1978
セントクレスピン Aureole
Neocracy
ミスアシャガワ ヒンドスタン
シラオキ
アウトクロス
F-No.3-l